【個人インタビュー】宮田知己ヘッドコーチ ”アメリカ仕込みのコーチングスキルを駆使してチームをインカレ出場へ導く”

1部リーグの開幕に向けたチームインタビューの番外編として3人に対する個人インタビューを掲載します。2人目は龍谷大学ヘッドコーチの宮田知己さんです。大学2年生でアメリカのゴンザガ大学へコーチ留学するなど異色の経歴を持つ宮田コーチ。
昨年チームを指揮した立場で見えたビジョンとは。留学時代の秘話から今年のチームの注目ポイントまで様々な内容をお聞きました。

龍谷大学のヘッドコーチ就任について

—— 龍谷大学のヘッドコーチに就任した経緯を教えてください。

まず初めに自分の目標は「日本代表チームのコーチとしてバスケットボールの発展に貢献し、バスケットボールを日本のメジャースポーツにすること」です。
バスケットボールを始めたのは小学校4年生の頃です。小学校にあるミニバスチームと外部チームの両方に所属して小学校6年生まで続けました。その後は中学校・高校とプレーヤーとしてバスケットボールを続けていました。コーチを目指すきっかけはバスケットボール人生で最初のコーチとして上野経雄さんを含む2人の偉大なコーチに出会えたことでした。上野コーチは(元)レバンガ北海道のアシスタントコーチで、(現)女子日本代表のアシスタントコーチをされている方ですが、大学生の頃に自分が所属していたチームを教えて下さっていました。バスケットボールを始めてすぐに出会った上野コーチの姿を見て、将来はこの人の様なコーチになりたいと思い始め、上野コーチのようになるという夢がバスケットボールを続けるモチベーションになりました。中学校では自分のバスケットボールへの取り組みを後輩に伝える様になり、高校はコーチングコースがある桜宮高校へ進学しました。コーチになるためには英語とコーチングの勉強が必須であると考えて、アメリカの大学に留学できる龍谷大学に入学しました。2年生でゴンザガ大学に留学後、Bリーグの現役ヘッドコーチの方々に自分の進路をご相談して、「自分に足りていないのは人をコーチングする経験だ」と感じました。そのタイミングで高校の後輩である#21 高橋克実(3年/SG/桜宮高校)も所属する龍谷大学のバスケットボール部からお声掛けを頂いてので、ヘッドコーチに就任しました。

ゴンザガ大学への留学時代を振り返って

—— 留学先をゴンザガ大学にされた理由は何ですか?

留学の目的があくまでコーチングや英語の勉強だったので、自分の英語力とマッチングする大学を探していたところ、当時はNCAAの全米ランキングで2位を獲得し、名将のマークヒューさんが指揮をしているゴンザガ大学が候補に挙がったので、留学を決めました。

—— 留学中に苦労されたことはありましたか?

最初の数か月は全くチームに帯同できなかったことです。
留学の目的がバスケットボールを学ぶことだったので、留学してすぐにチームに帯同できると考えていました。しかし、向こうからするとバスケットボール好きの普通の留学生に過ぎないので、世界中から特待生を取っているチームに入ることができず、門前払いを受けてしまいました。NCAAのDiv.1に所属しているチームなのでスタッフや選手のプライベートは完全に秘密にされていて、接触する機会も全くありませんでしたし、メールや電話をしても反応はありませんでした。そのため、最初の2~3か月間は自分の考えを伝えられる英語力とコーチングの知識を付けることに注力しながら、コーチが開催するセミナーなどに参加して積極的にコミュニケーション取る様にしました。幾度もセミナーに参加して「自分にはコーチになる夢があります。そのために留学してきたので練習を見学させて下さい」と話をしていると、熱意が伝わりチームのスタッフの方に取り次いで頂けて、練習に参加することができました。

—— ゴンザガ大学でコーチングの授業を受けた中で帰国後に活きた内容や印象的なエピソードとかはありますか?

コーチングは言葉の伝え方が重要なことを体感できたことです。ある日のコーチングの授業中に先生が「私にスクワットをさせて下さい」と言ってきたので、僕たち学生は最初に「膝を曲げて下さい」と言いました。すると、お尻が地面に付くぐらい膝を曲げて、とてもスクワットとは言えない状態でした。そこで、足の幅・膝の角度・目線など詳細に伝えるとスクワットをさせることができました。この時に先生から言葉で人を動かすのはとても難しいことだから、言葉選び・声のトーン・伝え方は工夫が必要であると話をされたことは、とても印象的で帰国後にも選手たちに物事をどのように伝えるか考えるきっかけになりました。

—— アメリカトップレベルのゴンザガ大学の練習や試合を見学されてどうでしたか?

留学生だったのでチームに所属することはできませんでしたが、毎日練習に参加させて頂いたり、選手の個人ワークアウトに同行しただけでなく、ビデオアナリストの方など色々な立場の方々とコミュニケーションを取り、様々なことを勉強させて頂きました。特にアシスタントコーチのトミーロイドさんとはコーチとしての立ち居振る舞いやグローバルな選手とのコミュニケーション方法などヘッドコーチを支える立場としてのお話を多く聞かせて頂きました。

—— ゴンザガ大学の練習に参加された第一印象を教えてください。

第一印象はバスケットボールに対する情熱が異常に高いと感じました。日本人のアメリカのバスケットボールに対するイメージはフィジカルが強くてプレーが派手であることだと思うんですけど、実際にはバスケットボールに対する想いや情熱の髙さが並外れていました。アメリカ人はバスケットボールが純粋に好きで、とにかく上手くなりたいという情熱が異常なまでに伝わってきて、コーチが伝えた一言一言に対する反応や練習での切り替えの早さが日本とは全く違っていました。

—— 日本とアメリカで練習内容や練習時間に差はありましたか?

日本は比較的長時間練習をするチームが多いと思うんですけど、ゴンザガ大学は基本的には1時間半ほどしか練習時間はありませんでした。さらに、練習前にスタッフや選手が全員参加するミーティングで今日やるべきことやチームに足りないことを確認してから練習を行うなど、短時間でもいかに密度の濃い練習をできるのか追求していた印象はあります。

練習内容で特徴的だったポイントはゾーンディフェンスであったり、3対3や5対5などのチーム全体に関わる練習以外はインサイドとアウトサイドに分けて、より専門的な練習をしていた点です。練習の中には全員が同じことをする必要の無いこともあり、ゴンザガ大学の練習方法は非常に理にかなっていると感じたので、龍谷大学でもポジションごとなどの複数グループに分けて、それぞれの役割にあった練習をするように取り入れています。

—— 宮田さんが留学されていた頃は八村塁選手が在籍されていましたが、交流などはありましたか?

八村選手とは3回ほど直接お話しさせて頂いたんですけど、全米でもトップ10に入る有名な選手だったので、大学に来るときも車で送迎されていたりと、完全に別格の扱いで濃い内容の話とかはできませんでした。いちバスケットボールファンとしてはもう少しお話できれば嬉しかったです(笑)

—— ゴンザガ大学への留学で一番学んだことは何ですか?

バスケットボールに対する知見が深まったことはもちろんですが、コーチとして誰が(どのような経歴のコーチが)伝えるか・どのように伝えるかで選手への浸透力や理解力に差が出ることを改めて学びました。インターネットの発達でBリーグやNBAのコーチ・選手の動画を見ることはできますが、実際にNCAAでトップレベルのチームを率いるマークヒューHCやトニーロイドACの選手に対するアプローチを生で見て、コーチへの信頼やコーチ自身の人間性を高める必要があることを再認識できたことは留学して得られた大きな財産だと思います。
HC:ヘッドコーチ  AC:アシスタントコーチ

—— ご自身の経験から日本人選手も積極的に留学するべきだと思いますか?

海外にどんどん出ていくべきです。選手とコーチで立場は違いますが、上達するためには視野をどれだけ海外に向けて、自分の世界を広げることができるのかが重要になります。これから日本のバスケットボールを世界水準まで引き上げていくには、例え海外に行くことがなくても常に世界と戦う意識を持って行動していくことが必要不可欠になってくると考えているので、プロ選手であっても積極的に海外進出を狙って欲しいです。アメリカでプレーする選手はNCAAやNBAなど日常から世界レベルを体感している訳であって、日本の大学やBリーグでプレーする選手はあくまで日本レベルしか体感できないことが多くなっています。人間は経験しなければ気付けないことがあるので、大学生などの若いうちからどんどん海外へ留学して世界レベルを体感して欲しいです。

自身初のリーグ戦を振り返って

—— 3年生から龍谷大学にヘッドコーチとして入部されて、苦労されたことはありましたか?

4年生が在籍している状態のチームに3年生で入部した自分がコーチとして指導しなければいけないことは難点であると思っていましたが、悩んだりはしませんでした。自分は人間関係を1から構築したり、コミュニケーションを取って良好な関係を構築することが得意なだけでなく、自信過剰な性格なので「必ずできる」と思っていました。

—— 入部早々のコロナ禍で練習できない期間が続いた中で、気を付けていたことなどはありますか?

チームとして最も大切なのは「全員がどこを見て行動するのか」だと思っているので、キャプテンの下畑両平さんとお食事に行った際にチームの目標を伺うと、「インカレ出場」を挙げられました。そのため、初日からインカレに連れていくことを念頭に置いて練習を見ていましたが、正直な感想は「インカレ出場は難しくない、イケる」でした。チームとしての目標が妥当であると感じたので、選手全員にどれだけ本気で「インカレ出場」を信じさせるかに時間をかけました。チームが目標を忘れないように集合の時に問いかけて確認したり、LINEのグループにボイスメッセージや自撮り動画を送ることで自分の考えを伝えるようにしました。メッセージではなくボイスメッセージや自撮り動画を送った理由は、留学時代に言葉一つの捉え方が違うことを感じたからです。文字で送るのではなく、表情・声のトーン・雰囲気を踏まえて自分の強い思いを伝えることができるよう、できるだけ動画を送る様に心がけました。

—— リーグ戦の序盤は5連敗スタートで、尻上がりに調子を上げてインカレ出場の切符を掴んだ訳ですが、チームを指揮されていて変化などは感じましたか?

インカレに出場できた一番の要因はリーグ戦を通して最後までチームが崩れなかったことだと思います。序盤の5連敗していた時にも誰も下を向かなかっただけでなく、試合後のミーティングでは自発的に改善策を見つけようとしていました。「試合をする→負ける→反省する→修正する→試合をする」このサイクルを繰り返したことが尻上がりにチームの完成度が高まった要因になりました。

個人的には去年も「関西で優勝できる」と信じていて、克実(高橋)に「初戦の京都産業大学にも勝てるよな」と聞くと「勝てます」と答えたこともあって、僕たち2人だけ異常な自信で試合に臨みました。結果的にはボコボコにされましたが、気持ち的には負けて当然とは思いませんでした。5連敗した時は常に「負ける」と思ったことは無く、チームを冷静に見て「勝てる」信じて試合に挑んでいました。しかし、自分自身がリーグ戦の戦い方に慣れていなかったことやチーム初の公式戦で試合慣れしていなかったことが5連敗に繋がってしまいました。そのため、チームと共に反省して修正するサイクルを繰り返し、最善を尽くして1試合1試合に挑んだ結果が終盤の6連勝に現れたと思います。

大阪体育大学  比嘉靖 監督

—— チームの連敗中に相手の監督と話をする中で、印象に残っていることはありますか?

大阪体育大学の監督である比嘉靖先生とのお話です。
インカレ出場の条件がリーグ戦で5位以上に入る事なので、チームが5連敗するとインカレ出場はほとんど絶望的になると分かった上で臨んだ大阪体育大学戦でした。しかし、逆転負けを喫して、インカレ出場が厳しくなったことよりも「勝てる」と思って挑んだ試合に負けた悔しさが強くて、大阪体育大学の監督である比嘉先生にお話を伺いました。勝利した相手の立場から話を聞くことで、自分たちに足りない点や考えの甘さを知る事ができ、比嘉先生のお話から多くのことを学びました。

リーグ戦に向けて

#21 高橋克実(3年/SG/桜宮高校)

—— チームの注目ポイントや注目選手を教えてください。

関西全体として注目されるのは#21 高橋克実だと思うんですけど、克実は厳しいことを言うとコンスタントに得点することが彼の仕事なので、彼に対しては期待を超えた当たり前の存在になって欲しいと伝えています。

そのため、今回は#6 陳凌霄(2年/C/別府溝部学園高校)を注目選手にします。1年生の頃は怪我が多いだけでなく、基礎的な技術もまだまだでした。しかし、最近は勝ちへの意欲を見せて走り込みに耐えるなど、一歩一歩着実に成長している選手なので、練習の成果を発揮して少しでも才能の芽が開けば良いなと思います。

#13 髙橋大地(4年/SG/尽誠学園高校)

キャプテンの#13 髙橋大地(4年/SG/尽誠学園高校)にはプレー以外の面も含めた全てにおいて期待しています。大地(髙橋)はチームで一番負けず嫌いですし、客観的に見ると克実に技術面で劣る部分があるなど、悔しい思いも人一倍してきていると思うので、コート内外での大地の存在には期待しています。

—— 最後にリーグ戦に向けての意気込みをお願いします。

自分はコーチとして“導く”ことにこだわっています。そのため、チームの目標である「インカレ出場・1回戦突破」の実現に導けるバスケットを展開することを重要視して、一人一人の良さを自分が引き出すことができるようにチームに対しては「インカレ出場・1回戦突破」を徹底し、自分の中では「関西制覇」を密かな目標にやってやろうと思います。


昨年のリーグ戦では1部リーグ昇格後、即インカレ出場という快挙を果たした龍谷大学。ゴンザガ大学へのコーチ留学という異色の経歴を持つ宮田ヘッドコーチが今年もチームをインカレ出場へ導けるか。学生生活最後のリーグ戦が幕を開ける。

1部リーグは全試合のYouTube LIVE配信を実施します。要チェック!
https://www.youtube.com/channel/UCN63sYojuQOIVl3BZgApVWw

写真提供:FASTBREAKS

広報渉外部 長友優典

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